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盛岡地方裁判所 昭和25年(行)77号 判決

原告 佐々木利男

被告 岩手県知事

一、主  文

被告が昭和二十四年二月一日附岩手ぬ第二一五〇号買収令書をもつて岩手県九戸郡種市町第四十八地割八十九番の三田一畝二十歩、同上九十七番田一反二十歩、同上八十番田一畝六歩、同上七十一番田三反歩につきなした買収処分はこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、その請求の原因として、岩手県農地委員会は請求趣旨記載の土地を第十期買収計画に編入し、昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き昭和二十三年十二月二十八日買収計画を樹立したので原告はこれに対し異議を申し立てたところ却下され、更に被告岩手県知事に訴願を提起したが棄却となり、被告知事は所定の承認手続を経た上昭和二十四年二月一日附をもつて買収令書を発し右令書は昭和二十五年七月三十日原告に交付された。

しかしながら右買収処分は左の理由により違法である。

(一)  前記買収令書には買収の時期の記載がなく買収の時期の定めがなかつたものである。

(二)  前記土地は元訴外佐々木富男の所有であつたのを昭和十八年十一月七日原告が分家するに際し同人から贈与を受けたものであり、その所有権移転登記は昭和二十年十一月二十九日これを経由したが同年十一月二十三日基準時現在既に原告の所有となつていたものである。しかして右基準時当時原告は合計四町八反一畝十七歩の農地を所有していたが、全部小作地であつたため既に買収され、買収計画樹立当時僅かに前記土地を残すのみとなつたところ、その面積は法定の小作地保有面積の限度内であつたにかかわらず、県農地委員会は右事実を無視し基準当時の前記土地の所有者を右佐々木富男と誤認して買収計画を樹立したのは違法であり、従つてこれに基いてなした被告の前記買収処分は違法であり取消を免れないからこれが取消を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告の答弁に対し、後日になつて買収令書に買収の時期を記入してこれを補正することは許されないと附陳した。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、岩手県農地委員会が原告主張日時その主張の土地につき昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き買収計画を樹立したこと、これに対し原告が異議の申立次いで訴願を提起したがそれぞれ却下、棄却され、被告が原告主張日附をもつて買収令書を発し、右令書はその主張日時原告に交付されたこと、右令書に買収の時期の記載がなかつたこと、原告がその主張日時前記土地につき所有権移転登記を経由したこと、基準当時原告がその主張のとおりの農地を所有していたことはいずれもこれを認めるが原告その余の主張事実はこれを争う。前記買収計画書には第十号と記載されており、それは第十期買収の趣旨であつて初めから買収の時期は確定していたものであるが、なお念のため昭和二十七年十月十五日買収令書に買収の時期を昭和二十三年十二月三十一日と記載してこれを補正し同月十七日原告に交付したのである。

原告は小学校教員として昭和十五年以来県下各地の小学校に勤務し昭和二十年十一月二十三日基準時現在本件土地を耕作した事実なく、却つて前記佐々木富男においてこれを訴外麦沢福松、麦沢種吉、麦沢仁太郎及び大下善太郎にそれぞれ小作せしめ、その小作料を自ら収納していたもので、前記日時当時本件土地の所有者であつたのである。ところが買収計画を樹立した昭和二十三年十二月二十八日当時右土地の登記簿上の所有名義が原告になつていたので、買収手続はすべて原告名義で処理し、従つて買収令書も原告に交付したのであつて何等違法はないと述べた。(立証省略)

三、理  由

昭和二十三年十二月二十八日岩手県農地委員会が原告主張の土地を第十期買収計画に編入し、昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基き買収計画を樹立したこと、これに対し原告より異議の申立、次いで訴願の提起があつたがそれぞれ却下、棄却され、被告岩手県知事が所定の承認手続を経た上昭和二十四年二月一日附で買収令書を発し、右令書は昭和二十五年七月三十日原告に交付されたこと、右令書に買収の時期の記載がないこと、右土地につき昭和二十年十一月二十九日原告名義に所有権移転登記がなされていること、同年十一月二十三日現在における原告の所有農地が四町八反一畝十七歩であつたことはいずれも当事者間に争がない。

まず前示買収令書に買収の時期の記載がないのは違法であるとの原告の主張について案ずるに、買収の時期は自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)による買収手続において、買収の対象とされている当該農地等の所有権が買収の相手方から政府に移転する時期であり(同法第十二条)買収計画樹立後縦覧に供すべき書類及び買収令書又はこれに代る公告に必ず記載しなければならない事項とされているのであつて(同法第六条第五項、第九条第二項)このような法定の必要記載事項の記載の欠缺は、それ自体違法であることは疑ないところであるが、しかし買収の時期が定まつていて、単に買収令書その他にその記載を欠いたに止まる場合かかる違法が、そのような買収令書によつてなされた買収処分そのものを取り消さなければならないとする程の瑕疵に該当するものとは到底解し難い。しかして買収機関が買収計画を樹立するに当つては、第何期の買収計画というように期を定めて或る特定地域の農地等につき集団的に一括してこれをなすのを通例とし、かくて買収計画樹立の日及び買収の時期等はその計画に編入された各農地等につき劃一的に定まり、その期別によつて確定しているものといわなければならない。従つて仮令個々の買収令書それ自体に買収の時期の記載がなくても直ちにもつて買収の時期の定めがないものとはなし難く、むしろ単にその記載を遺脱したにすぎないものと解するのを相当とする。本件についてこれを観るに、岩手県農地委員会が本件土地を含めて九戸郡種市村(その後町制施行により種市町となる)所在の農地等につき一括して第十期買収計画を樹立したものであることは当事者間に争のないところであり成立に争のない乙第二号証によれば右第十期買収計画の買収の時期は昭和二十三年十二月三十一日であることを推認するに難くないところであるから前示買収令書に買収の時期の記載のないのは単なる記載の遺脱であると認めるのを相当とし、しかして右の瑕疵は前段説明のとおりいまだもつて前示買収処分の取消原因となすことを得ない。よつてこの点に関する原告の主張は理由がない。

次に昭和二十年十一月二十三日基準時現在における本件土地の所有者について争があるので案ずるに、証人佐々木ミヨ、佐々木貞蔵、麦沢種吉の各証言を綜合すれば、前示土地は昭和十八年中原告が分家するに際し訴外佐々木富男から贈与されたものであつたところ、所有権移転登記手続を履まずに置くうち農地改革の施行に遭うや買収されることを恐れて昭和二十年十一月二十九日に至りこれが登記手続をなしたものであること、原告は小学校教員として永らく県下各地の小学校に奉職し、種市町に転住するようになつたのは昭和二十一年四月頃で、昭和二十年十一月二十三日現在においては右佐々木富男と別世帯をなしていたものであることを認めることができる。右認定に反する証人麦沢福松、麦沢仁太郎、大下金松の各供述部分は前記各証拠に照らしにわかに措信し難く、その他被告提出援用にかかる全立証をもつてしても右認定を覆すに足りない。

しかして成立に争のない甲第三号証によれば、岩手県農地委員会が本件土地につき自創法第三条第一項第三号に該当するものとして買収計画を樹立したものであること明らかであり、また昭和二十年十一月二十三日現在における右土地の所有者を前示佐々木富男と認定しながら、買収計画樹立当時登記簿上の所有名義人が原告となつていたところから、所有名義人たる原告を名宛人として本件買収手続を処理したものであることは被告の自認するところであるので、前記法条に定める買収要件存否の認定に当つては専ら佐々木富男についてこれを決したものであるといわなければならない。しかし自創法第三条第一項第三号による買収は、買収の相手方が所有する自小作地面積の合計が法定の保有限度を超過する場合その超過小作地についてこれをなすのであるから、当該農地が何人の所有であるか、すなわち世帯主又は同一世帯に属する同居の親族の所有であるか否かにより面積算定の基礎に変更を来たし、右法条に規定する買収要件具備の有無が決定的に左右されるものであるところ、岩手県農地委員会は、本件土地の真実の所有関係の認定を誤まり、これを前記佐々木富男の所有とし、且つ原告と同人とは同居の親族でないのにかかわらず、同人所有の自小作地面積の算定の基礎にこれを加えた結果、法定の保有自小作地面積を超過する小作地として原告名義をもつて買収計画を樹立したのは違法であり、従つてこれに基いて被告知事のなした本件買収処分もまた違法であつて取消を免れない。この点に関する原告の主張は理由がある。

よつて原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

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